

10月の半ば、藤野を訪ねました。まだ、行ったことのなかった増田勉さんや田谷直子さんのお仕事場を訪ねつつ、久しぶりに長谷川奈津さん宅へも寄ろうという欲張りツアーです。本当は、竹本ゆき子さんも訪ねる予定だったのですが、直前にお友達に不幸があって中止。スタートは奈っちゃんのおうちになりました。
その長谷川奈っちゃんも前日夜中に焚いていた窯が壊れ(!)、一時はツアー自体をやめにしようと思ったのですが、大丈夫ですとのメールで決行。お昼を一緒にという言葉に甘え、午前中、藤野の駅に降り立ちました。
奈っちゃんの家に行く大きな楽しみは、やさしい飼い主のもとで幸せに年老いたイヌネコたちに会えること。彼らの「若いころ」から知るわたしを、懐かしがってくれてる訳はないと思うけど、かわるがわるにまとわりついて喜ばせてくれるみんなです。
12月に「楓」さんで、久々の個展を控える奈っちゃんは初々しく緊張していて、わたしを驚かせます。黙々と自分の道を歩み、その世界を確立しているような彼女だけれど、つねに「ドキドキしていたい」と、また新しい試行錯誤をしているようでした。
用意してくれていたお昼は、どれもがからだをホッとさせるものばかり。(上の写真です。)
「なんだか、夢中になってどんどん作っちゃって…」。お料理は(仕事からの)逃避なんです、と笑うけれど、その時間がいつもひとり真摯にモノづくりに取り組む彼女の、やすらぎであり、刺激でもあるのだと思います。
ひとしきりの滞在のあと、増田さん登場。わたしを迎えに来てくれがてら、奈っちゃんの壊れた窯の視察です。藤野エリアの女性陶芸家たちにとって、増田さんは頼れる「男手」であるらしい。
「酔いますよ〜〜」と脅された増田さんの運転で曲がりくねった山道をひた走り(酔わなかった)、着いた工房は道志川に近い山の中。噂には聞いていたけれど、天井の高い倉庫のようなスペースには増田さんに却下された作品が山積み。「納品前においているうちに、ダメだこれは出せないと思っちゃうんですよね」。先生から陶芸家に転じた増田さんのハードルは高いのです。
粉引き、刷毛目、灰釉、鉄釉、織部、三島…。手がける分野は幅広く「石田誠さんが来たときに『一人問屋やねえ』と言われました」と笑いながら、遅いスタートの陶芸家生活にスパートをかける増田さん。その表情は作ることが愉しくてたまらない、少年みたいな輝きです。
膨大な数のうつわたちに目移りしながら、増田さんがこれはOKと言ったいくつかをいただきました。

カメラの画面から逃げ出す増田さん。(田谷さんもついに写真に納まってくれなかったのです。)

焼きものより嬉しそうに見せてくれた手製の釣り竿と網。「でも、去年は道志川の一年券買って、一度しかいけなかった。」亡くなった青木亮さんと知り合ったときも、最初は釣り友だちだったという。でも、いまは釣りより焼きものにぞっこんの増田さんです。
「最近できた」ばかりの「セブンイレブン」で田谷さんと待ち合わせ。
「藤野からそのコースで来ると、みんなうちに来る頃は日が暮れちゃうんです」と心配していた田谷さんだけど、今回はなんとか日のあるうちに滑り込み。「明るいうちに行った方がいいです」と、奈っちゃんも勧めてくれたわけは田谷さんのお母様が手入れするお庭が素晴らしいから。
自宅の一角にある田谷さんの仕事場のまわりは、大きな木から山野草に至るまでたくさんの植物たちに彩られていました。「素敵だねえ〜」。工房に入るまでにひとしきり感嘆。
工房に落ち着くと、まずはお母様お手製の栗の甘露煮と山椒の佃煮がお出迎え。その美味しさに感動しつつ、おしゃべりをしていると、今度は手打ちのおうどんをお母様自ら運んで来てくれました。「おうどん、大丈夫ですか?」もちろん大丈夫です。が、大恐縮。。。
地粉のおうどんはしっかりと腰があって、のどごしは良く、いただいてばかりのお腹にもするりと収まります。もちろん、うつわは田谷さんのもの。
田谷さんと話していると「カレーはこれで食べています」「これでお味噌汁を飲んでます」など、具体的だけど、そうか、こういう手間隙かけた食が日々の暮らしに普通にあって、そこから彼女のうつわが生まれてくるのだと。だから、どれもお料理をイメージできて使いやすいのだと途端に腑に落ちてしまいます。
そして、ナチュラルでありつつ、礼儀正しく思いやりある田谷さんの性格も、ここで育まれてきたのかと納得するのです。


みんなの手をすっかり煩わせ、気がつけば美味しいものばかりいただいて、すっかりくつろいでしまった藤野ツアー。何だか、ただ遊びに来ちゃったなあ、という反省とは裏腹に満ち足りた幸せな気分で電車に揺られ、帰途についた1日でした。
いただいて来た増田さんの田谷さんのうつわは
こちら。長谷川奈津さんには、来年1月の「酒器展」に参加していただきます。
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