2006年 10月 19日
柴田慶信さんのきこり弁当。 |
毎日は作れないけど、それでも、2〜3のお弁当箱のローテーションだと飽きて来る。いえ、相棒がじゃなくわたしが、ですが。
これまで、春慶塗りや汁気の出るおかずにのときはタイ製のステンレスのものなど使っていたのですが、ごはんがとても美味しくなるおひつの良さを知ったので、今度は同じ杉の曲げわっぱが欲しいと思いました。
とりあえずネットでリサーチしてみたけれど、ピンからキリまで多すぎてわからない。それで、日本の暮らしに根付く生活工芸を紹介する仕事をされているスタジオ木瓜の日野さんに聞いてみることにしました。
忙しい中、日野さんから来たメールには「このごろ秋田の柴田慶信商店のものばかりお薦めしています」。それは、わたしもネットで見て心ひかれていたひとつでした。
「そうですか、わたしもじつはそこのが気になってました。取り寄せてみようかな?」「柴田さんは時折、東京のデパートなどにも実演に来てますよ」「そうですか!では、そういう機会があったら、教えていただけますか?」
作った人の手から、手にすることができたらどんなに幸せなことでしょう。
と、まさにメールでそんなやりとりをしたその日のお昼、日野さんから電話がかかってきました。「柴田さん、今日から一週間日本橋三越で実演されてます!」
なんというタイミング。1日、家にいるはずだった火曜日。おもむろに出かけ支度をし、何年かぶりの日本橋三越に飛んで行きました。
ゆったりとして、日本橋三越ならではのどこか優雅な和食器フロア。その一角に香り立つ杉のわっぱに囲まれて、柴田慶信さんは座っていました。
本で見たことのある和せいろや美しいおひつ、飯台、大きなお重など、見事な作品をため息とともにぐるり拝見した後、柴田さんのひざ元に並んだお弁当箱たちの前にしゃがみこみ物色を始めました。なにか話し掛けようとしてくれた柴田さんに、日野さんから教わったことを告げると、ああ聞いてますと目が和みます。
主人のお弁当箱が欲しいんです。ネットで見て目をつけていた入れ子の小判型は思いのほか小振り。すると、これは3才の孫娘さんが小さいときには一段使い、大きくなってきたらもう一段と増やせるようにと作ったということ。孫娘さんができて気付くことが多かったと、ふと真顔で語ります。その脇にある少し大降りの小判型に目をうつし、こちらは一段だけですか?と、訪ねると、となりにあったもうひとつをだまってその上に乗せてくれました。なるほど、必要に応じて2段にも3段にも、重ねてすっきり収まる手仕事の精緻な美しさ。手品でも見せるように自慢げにたのしげに、自らのわっぱを扱う熟練の職人、柴田さんにすっかり魅せられてしまいました。
小判型もいいけれど。でも、じつはわたしが引き付けられてしまったのは、真ん丸の「きこり弁当」。これかわいいですね、と言うと、じつはその原形は身とふたで一升入るきこりの弁当箱。「仕事に行くとき、これにごはんを入れて生の塩鮭を入れておくと食べるころには蒸した鮭になる」。北国の昔の素朴で実質的な暮らしが忍ばれます。
真ん丸いお弁当箱。さぞ、通勤のかばんに入れにくかろうとと思いつつも、もう気持ちはきこり弁当をヒシと抱きしめてました。
使うときは?水に濡らしてごはんを入れる。油や何かで汚れたときはクレンザーとたわしで擦る。え、クレンザーなんて使っていいんですか?削れちゃう。削って使うものなんですよ、こういうものは。まな板と一緒。あ、そうなんだ!
びっくりと口を開けたわたしに、またたのしそうな柴田さん。
足を止める人止める人に話し掛け、曲げわっぱをその手に乗せて手品を見せ、笑顔に永年の仕事への誇りと愛着をほとばしらせ、暮らしの智恵を教えてくれる柴田さん。閉店までくっついて耳を傾けていたかったけど、またきっとデパートにも、秋田にも、会いに行こうと心に決めて、小さなきこり弁当を抱えて売り場を後にしました。
柴田さん「ご主人にお弁当を持たす前に、まずはあんたもこれで味わってみることだ」という教えの通り、翌朝は、きこり弁当を身とふたに分け、朝ごはんのお茶碗代わりに使ってみましたよ。200年の樹齢の杉の香がぷ〜〜んとして、ごはんがひと粒残らずきれいに取れて美味しくいただけました。
そして、今日はようやくお弁当デビュー。通勤かばんに無理やり押し込めて、相棒は出かけて行きました。
by utsuwa-party
| 2006-10-19 15:06