北の人名録 |
もう、20年あまり前、広告の会社にいた頃、出向で1年函館に住んだことがあります。そのころ、ちょうど刊行されたこの本。
脚本家の倉本聰氏が北海道の富良野に移住して、出会った純朴にして破天荒な地元の人々。旺盛な好奇心、図々しいほどの人なつこさ、後先考えぬ行動力、ゆえに巻き起こる日々の騒動に、呆れつつ巻き込まれて行く作者。大真面目だからなおさら可笑しい、愛すべき隣人たちとの北の国での暮らしを描いたその本の、軽妙洒脱な文章に引き込まれ一気に読んだものでした。その頃、出会った函館の人たちとオーバーラップするものがあったことも一因。
さらに、本を読んだしばらくあと、ひとりふらりと「北の国から」の舞台となった麓郷を訪ね、日暮れに帰りのバスを待っていると停留所の前の家の人が寒いからと招き入れ、晩ごはんまでご馳走してくれたのに恐縮するやらびっくりするやら。感謝とともに、あ〜こういうことかと妙に納得してしまったのでした。
さて、その本をふいに読み返したくなったのは、大野木工の人々のことを考えていたとき。もちろん大野の人たちは、富良野のように破天荒ではないし、むしろちょっとシャイで遠慮がちに見えるけれど、どこか少年のままおじさんになってしまったような真面目だけれど、どこか気まま。夢中になるときは、とことん夢中で一生懸命。そんなピュアな気質が感じられ、何か忘れていたものに出会ったような気分にさせてくれたのでした。岩手の大野村の風景があまりにのどかで広大で北海道を彷彿させたこともあるかも知れません。
「読みたい」と、おもむろにamazonで文庫の古本を取り寄せたあと、実家の本棚を見たらすぐ目につくところにセピア色になった単行本がありました。もう、どこか行ってしまったかと思ったけれど大切にしていたようです。そして、20年以上ぶりに再会した本の中の富良野の人々は、あらためて笑いを誘うとともに、心に深く染みて来るのです。
大野木工のある岩手県九戸市洋野町の風景。
PARTYのHPに戻る